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白桃洋菓子
シンは途方に暮れていた。問題の日が明日となるとどうしようかと髪を掻きむしる。
「あ~だっもう!」
「うるさいぞ、シン。はしゃぐならブリッジではしゃげ」
怒られるじゃん!っとシンは思ったがレイの顔はマジなので言わないでおく。
明日はクリスマス。恋人とのイベントの一つ。
戦時中とはいえ、シンだって恋人のアスランとゆっくりと過ごしたい。
だが、クリスマスと言えばプレゼント交換。今、ミネルバは補給の為、基地に停泊中だ。
プレゼントを用意するなら今日しかない。だが、彼の欲しいものがわからない。
「あ~っ~。隊長は何が欲しいんだよ~っ!」
「そうだな、安らかなひと時じゃないのか?うるさいシンのいない」
ピアノの楽譜だろうか、レイはそれを見ながら淡々と喋る。
*****
「くそっ、レイの奴!」
確かに自分はぎゃあぎゃあうるさい。
いつもアスランは困ったように笑って……。
「でも、」
好きになってしまった。気に入らない奴だと思ってた。だけど認めてもらいたくなって……いつの間にか彼を求めて。
『安らかなひと時じゃないのか?』
毎日、書類整理、MSの整備、たしかに働きすぎだ。彼には休息が必要なのかもしれない。
街に出てきたけど、周りはクリスマスの飾りで綺麗で、今も彼は働いているんだと思うと何だか自分だけ楽してるみたいで嫌になる。
「プレゼントは~?」
背後から聞こえるからかい声。
「ルナ…」
「隊長にプレゼント、あげるんでしょ?」
ルナマリアは白い息を吐いて手を摩る。首に巻いたマフラーはメイリンも持っていたなと、ふと思う。
「何あげればいいかわかんない。あの人働き詰めで、レイは安らかなひと時がいいんじゃないかって…」
「た~しかに、フェイスだからってあれは働きすぎよね」
「俺、いっつもあの人に反抗したり、煩く言い寄ったり……」
自分の存在が彼を余計疲れさせてるんじゃないのか?そう思えば悲しくなる。
「や~だ、あんた泣いてる?」
「っ!?なっ泣いてなんかっ」
確かに少し目尻が湿ってる。恥ずかしいことこの上ない。
「私から見て、隊長は結構あんたに言い寄られるの嫌そうに見えないわよ?」
はぁとまた白い息を吐く。
「まぁ、困ってる様子はあるけどね」
でも、シンを見るあの綺麗な瞳はいつも彼を愛おしく見ている。それに何度か羨んだ。
アスランに憧れる気持ちは彼と付き合った後でもひっそりとあるのだから。
「隊長は桃が好きみたいよ?」
翌日
「「メリークリスマス~」」
食堂での軽いパーティー。停泊中だからみんなは肩の力を抜いて楽しんでいる。
「あれ~?シンは」
ヴィーノはシャンペンの入ったグラスを片手にルナマリアに聞く。
「さぁ?今日はクリスマスだからねぇ~」
ルナマリアはフォークに自分の好きな苺のショートケーキを刺し、それを口に入れる。
苺の甘酸っぱい匂いが堪らない。
「美味しいですか?」
白桃のショートケーキを口にしているアスランにシンは聞く。
「ああ、かなり美味しいよ」
アスランは少し幼い表情でケーキ……白桃部分を食べる。
頬が微かに赤い様子を見ると、このケーキを選んでよかったと本当に思う。
「でも、いいのか?食堂でパーティーやってるって」
シンとアスランがいるのはミネルバの甲板。アスランがここに居るのをケーキを買って来たシンが外から見かけたのだ。
「パーティーは惜しいですけど、あんたといない方がもっと惜しくなります」
パクリとケーキを食べる。甘さは控えめで桃の甘味がよく感じられる。
「俺、何も用意してないんだが…」
別にいりません。
シンはそう言ってケーキを食べる。我ながらケーキを選ぶセンスがあると思う。
「でも、シンはケーキをくれたし…」
「あんたは働きすぎなんです。今日ぐらいはゆっくりとしてください」
そう言いアスランのケーキをフォークで掬い、掬ったそれを彼の口に持っていく。
パクリと食べる彼にシンは内心可愛いと思いつつ、緩む頬を何とか抑える。
「ありがとう、シン」
「いいえ、俺はあんたの恋人ですから」
頭上から降ってくる白い雪。それを見上げては何も喋らず。
ふと左手に感じる彼の温もり。ギュッと握れば返してくるそれにドキドキする。
安らかなひと時ってこんなのかな?
シンはそう思った。
「ケーキ、本当に美味しかったよ。ありがとう」
「いえ、別……」
頬に触れる温もり。それがアスランの唇だと気付くのに数秒かかった。
「~~っ…はっ反則!」
「ん?」
ほんの少し首を傾け聞き返す彼。
あぁ、その表情も反則だ。
「……ちゃんと口にしてください」
そう言いシンはアスランを引き寄せ、彼の唇に自分のそれを押し付ける。
お互い頬が赤いのはこの寒さのせいだけじゃない。
ほんのりと桃の味がした。
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