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ふと電子カレンダーを見ると10月の29日と液晶に映し出されている。

もう10月の終わりかとアスランは思う。
戦争が終わり、今や脱走兵となった自分は評議会の監視下に置かれている。
評議会の方も忙しく自分の処置を後回しにしているのと、その評議会に参加しているラクスの計らいにより拘束は免れた。

アスランとしては、共に脱走兵となってしまった少女が無事ならそれでいいのだ。


コンコン――――――


部屋に響き渡るのはドアをノックする音。





箱庭幸福論





「どうも」

軽く挨拶をしたのは私服に身を包んだ黒い髪に緋色の目の…

「シンか、どうしたんだいきなり…」

「今日は俺があんたの監視謙護衛です」

そうか、とアスランは言ったが少し気になった。
何故、私服なのだろうとか、その前に何故シンなのだ?彼には彼の仕事があるだろう。

「さっ服を着替えてください」

「は?」

「出掛けますから」

そう言ってシンは簡素なベッドに腰かける。

「えっいや、何で?」

「……いいですから、ちゃちゃっと着替えてください。待ってますから」

理由を言わないまま、シンは部屋に取り付けられているテレビを付けた。
仕方がない、アスランは着替えるためにクローゼットの中から服を取り出し着替え始めたが

「ちょっ!ちょっと、どこで着替えてんですか!?」

「え?」

上着を脱ぎ、下に着てるシャツを脱ごうとした時にシンが叫んだ。

「どこってここだが…」

「いや、そうですけど」

アスランの言う事は正論だ。だから何故、シンが叫んだなのかはわからない。

「あんたって本当にいろいろ適当なんですね」

「いろいろ、ってなんだよ」

「いろいろはいろいろですよ。あぁーもう早く着替えて下さい」

そう言ってシンは自分とは反対の方向を向いた。そのせいで折角点けたテレビが見えなかった。











「昼はまだですか?」

「ああ」

着替えた後、直ぐに外に連れ出された。昼はまだというか、朝もまだだ。

「じゃあ、お昼どこかで食べましょう。何食べたいですか?」

「いや、何でもいいよ」

「それじゃあ駄目です。なんか食べたいものないですか?」

「特には……」


結局昼は近くのフードストアで買った。シンは好きなのだろう、おにぎりばかりだった。アスランは栄養ゼリー一つだけでシンが不機嫌なそぶりを見せたのは言うまでもない。

近くの公園のベンチに座り買ったものを食べた。

食べ終わると訪れるのは沈黙で…

アスランは横目でシンを見る。


嫌ではないのだろうか、自分はシンを裏切ったし、あの戦闘の負い目もある。
ましてやシンと会話をする時はルナマリアやメイリンと一緒だったが今や二人きりで、少し緊張していた。





その横では別の意味で緊張してる奴がいるとは気付かずに。



シンは実は緊張している。いや、悩んでいる。

この人は何をすれば喜ぶのか。
この人はきっと今日、この日は何の日かわかっていない。だから余計困るのだ。

もし、親友のあの人だったら、ルナマリアやメイリンだったら、もっと気の利いた事が出来るのだろう。

でも監視謙護衛だなんてルナマリアやメイリンだと無理だし、あの人も今はラクス・クラインと一緒だったから自分しかなくて。

それに、一番にこの人を苦しめたのは自分なのだから、家族を戦争で亡くした気持ちがわかるのも自分だから。

「えっとゲーセンに行きませんか?」

「は?」

思った事が子供っぽいが、これしか思い付かない。











「ゲーセンとかって初めてだ」

「みたいですね」

キョロキョロと周りを見るアスランにシンは少し笑みを浮かべた。まるで子供のようにセンター内を見るその姿に。

「あっ」

アスランが立ち止まった。目の前にはぬいぐるみが入ったクレーンゲーム。
アスランはその中の一点を見続けていた。

「もしかしてこれ……欲しいんですか?」

「えっ!いや、その……なんとなく」

「……変わった趣味してますね」

アスランが見つめているのは、豚のような牛のような犬のような生物の少し大きめのぬいぐるみだった。
正直に言うと可愛いとは思えない。

「取ってあげます」

「取るってこれを?どうやって」

「こうやってです」

コインを入れ、二つあるボタンを押す。目的のぬいぐるみをクレーンが掴んだ……が

クレーンはぬいぐるみを掴む事なく戻ってきた。

「何だよあれ!むっちゃへにゃへにゃ!」

そうそのぬいぐるみは所謂ビーズクッション。掴むのはとても難しいのだ。

「やっぱり無理か」

「いや、もう一回!あんなふざけた奴に負けるかよ!」

シンはまたコインを入れ、稼動させたが、ぬいぐるみを掴んでは落ちていった。

「くそっ!もう一回!」


その言葉を何度か口にしたがぬいぐるみを手には出来なかった。

「貸せ、シン、俺がやる」

見ていたアスランが痺れを切らしたか前に乗り込んで来た。

「いいです!これは俺の戦いなんです!」

アスランならいとも簡単に取ってしまいそうな気がしたシンは、赤服とエースと男の意地で断固譲らなかった。

アスランからしては何がどう戦いなのかがわからなかった。


その後、2回失敗してシンの中で何かが弾け、次にぬいぐるみを手にする事ができた。

シンとしてはMS戦よりも苦難な戦いだった。
そして取り出された奇妙なぬいぐるみを、愛おしそうに見つめるアスランにシンは一体どこが可愛いのだろうと疑問に思った。




「ありがとう、シン、今日は楽しかったよ」

「いえ、どういたしまして」

ゲーセンで二人は遊ぶだけ遊んだ。最初はお互いに遠慮していたがどんどんと楽しくなっていき、最後にはお互いに笑えていた。

「しかし、今日は何でおまえが監視だったんだ?」

「俺が上に頼んだんです」

何で?と言おうとした時に別の方向から声が聞こえた。

「アスラン!」

「キラ……?っとラクス?」

「はい、アスラン、お久しぶりですわ」

シン同様に私服に身を包んだキラとラクスがいた。

ラクスは現在、評議会に呼ばれ活動をし、キラはそのラクスと共に護衛としてプラントにいる。

「仕事は?」

「早めに終わって、と言うか終わらせてきたんだよ」

「まぁ!素敵なぬいぐるみですわね!」

説明するキラの隣でラクスはアスランが抱えるぬいぐるみを見て叫んだ。
その目はまるで愛おしむ目であった。

「あれのどこが可愛いんでしょう……」

「僕にはわからないかも……」

キラとシンの嘆きにぬいぐるみの話題で楽しんでるアスランとラクスには届かなかった。












アスランは部屋に戻り簡素なベッドに倒れ込んだ。
もちろんぬいぐるみも一緒である。

今日が自分の誕生日だとは知らなかった。

シンが自ら監視に来たのは、みんなが夜に小さなパーティーを開くから、それまでに自分には昼の時間を楽しんで貰うためだとか。

昼のゲーセンも、もちろん先程のパーティーも楽しかった。明るい姉妹にいつもうるさい同僚とそれを抑える奴、ラクスの歌も素敵でキラやシンとも沢山会話をした。

みんなからのプレゼントはまだ開けてないが、明日の楽しみに取っておく事にした。
少し酒を飲んだので眠いのだ。


ふとパソコンを見るとメールが届いていた。
誰からだろうと重い身体を起こし、パソコンのメールボックスを開いた。




"アスランに。

誕生日おめでとう。おまえの事だからどうせキラ達が言うまで忘れてたいただろ。
確か去年も忘れていたな。
おまえ、もしかして私の誕生日忘れてないだろな?
もしそうだと怒るからな!

オーブの方はおまえの事だ、ニュースを見てるからわかる通り、順調にいってる。
おまえの方はどうだ?ちゃんと飯食べてるのか?

実はキラにちょくちょく聞いてるんだがな。
やっぱおまえは危なっかしいから心配してしょうがない。


正直会えないのが辛いと思ってしまう。
それだけ私はおまえに助けられてきたってわかる。
でも私はもう大丈夫だ。だからおまえも大丈夫だ。きっと。


Happy Birthday Athrun。

また会える日を。


カガリより。"





彼女らしい文面に自然に笑みが零れる。
みんなしてよく、自分の誕生日を覚えてるものだなと。

辛いと思う。

本当は。

不自由では無いといえ、監視下に置かれる以上は自分は許可無しでは動く事も何もできない。
外に出る時も見知らぬ監視が就くだけ。


でも、彼女が、みんなが大丈夫なら

「俺も大丈夫だよ」


アスランは柔らかいぬいぐるみを抱きながらまたベッドに倒れた。

楽しかった今日の事を振り返りながら深い眠りに落ちた。
















































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