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「大人になりたくないなぁ」
二人しかいない放課後の教室、太一はそう嘆いた。
この間まで「あの先生、ガキ扱いすんだぜ!ムカつく!!」とか言ってたくせに、と遼は苦笑する。
「いきなりどしたの?太一くん」
からかいを含む言い方をしたが、それに乗って来ない太一、「大人になりたくない」の返事だけだ。
そんな事言ってもなぁ、遼は悩んだ。時間は待ってくれないから。
「俺さぁ、中学の時もそう思った。大人になりたくないって、でもさ、それはデジタルワールドのを思っての事だった」
大輔たち新しき選ばれし子供たちが現れて、もう自分は子供じゃなくなったんだ、もうデジタルワールドに……自分はいらない。春の事件の時もそう、自分たちはもう世界を救えないんだって。
そう思ったら大人になりたくないって言ってた。
「でも、な、アグモンにその事言ったら『じゃあボクもオトナになるから一緒にオトナになろーね』なんて言われてさ」
「………ぷっ、アグモンらしいな」
「俺もどーでもよくなってさ、まっいいか、みたいな。俺らしくないなって」
「わーかるよー、太一。俺もそうだからな、うん」
どこが、と太一は笑って遼の脇腹を軽く叩いた。
秋山遼はいつだってデジタルワールドに巻き込まれては大変な思いをする人物。
彼だけは選ばれし子供の中で異端な存在だ。
「ミレニアモンを倒した俺にもう使命も何もないからな」
「ふーん、でも」
「大きな事件がない限り、俺はもう巻き込まれないよ、もうどこにも行かないよ?」
「明日いなくなったりして」
「そんときゃ、ゲンナイやら四聖獣やらエニアックに文句つけてやるよ」
「そうだな、それに賢も悲しむから絶対いなくなんなよ」
ん?と遼は目を真ん丸とさせる。それに太一は何?と目で訴えた。
「太一は悲しんでくれないのかねぇ」
「賢が、悲しんでたら悲しむな。何たって仲間だからな」
いやいや、違う違う。
太一は自分がいなくなって悲しんでくれないのか?と言ってるのだが。
「一方通行は辛いねー、俺もアグモンになりたい」
「モノドラモンが泣くぞー。………ふぅ…帰ってくるんだろ?」
ここに。
「もちろん、太一に彼氏の称号を貰うまでは」
「貰っても帰ってこいよ、アホだろ、あっアホだったなすまん」
一気に機嫌をよくした遼は太一の首に抱き着いた。
身長差のせいもあり太一は前に倒れ込む。それに遼は悪い悪いと謝るもどかなかった。
「なんで大人になりたくないんだ?せっかく前向きになったのに」
「今が、楽しくて」
そう思わないか?
部活が終わって寂しくなった、でも部活はそこにある、チームメイトもそこにいる、後輩も食堂に行けば会えるし会いに来てくれる。
友達も毎朝会える。
仲の良い先生とも話せる。
授業も、お昼休みも、放課後のちょっとした遊びも。
「もう、無くなっちまうんだぜ。明日のテストで最後」
「そーだな。明日来て、登校日が二回、卒業式の予行に、卒業式か」
高校三年の三学期はとても短い。
冬休みが終わっても2、3週間でまた休みに入る。
家庭学習という名の休みだ。
そして次は卒業。
「楽しみだったんだ、あーもう学校来なくていーんだー。車乗ったり友達と遊びまくれるって喜んでた」
「ん?車買ったの!?」
「こないだな、合格祝いに」
「いーなー。また運転させろよ」
「はいよ、でもさぁ、いざ明日で終わりって思うと寂しくなってきた」
あの時とは違う喪失感。
友達との会話、担任の長ったるいHR、休憩のふざけあい、昼の食堂の肉の取り合い、放課後のサッカー。
全部、置いていかなければならない。
「卒業したら、この制服も着ないしな」
「そーだね」
「ごめん、本気で大人になりたくなくなった。もうちょっと、今の時間を過ごしたい。我が儘だな俺」
「太一、当たり前の事だ、それ。俺も、クラスの……いや3年皆が思ってるんじゃないのかな」
太一は大人になりたくないって言ったけど、つまり卒業したくないって事なんだろ?
そりゃ、俺もそうさ。
遼は抱き着いていた腕を太一から離し、教室の窓を開ける。
雪と共に肌寒い風がカーテンを揺らす。
「俺も、もうちょっとだけ子供でいたいなぁ」
大人になりたくないなんて、あの世界への思いだけだと思ってた。
だからそれを乗り越えれば、もう大丈夫だと思ってた。
そんな事なかった。
あの世界と同じくらい大切な時間を手に入れてしまった。
それは誰もが思う事。
それでも僕たちは大人になる。
子供の僕にバイバイ
涙がこぼれた。
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